どろえびすの診療話 「憂いを含んだまなざし、やさしい肌」

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当地もこの1・2日少し寒くなってきた。この寒さを押して診療所

に通ってきてくれる方たちには頭が下がる思いです。

 荒川さんはわたしより少し歳上で、過去に悩内出血と悩梗塞を患い

右半身がわずかにマヒしている。メガネの奥の彼女の眼差しは、過去

に大きい病を経験したためか、これともこれからの余生にたいする不

安がそうさせるのか、いつも憂いを含んでいる。色白ではないが、や

さしい肌、こんな弱々しいが理知的な人に逢うと、わたしはたまらな

く切なくなって、思わず抱きしめたい衝動にかられる。彼女は

「先生、わたしは右半身マヒだから字がうまく書けないんです」

「はい、歩くほうは?」

「何とか歩けるんですけど、杖をついて転ばないように氣をつけてる

んです」

「そうですよ。氣をつけてね」

「はい、でも、最近デイケアに行き始めてるんですけど、矛盾を感じ

ることがあります」

「矛盾?」

「わたしよりはずーっとよく動く人が『要介護2』で、やっと歩いて

いるわたしがどうして『要支援2』なんでしょうか、わかりません」

 彼女が余り真剣に訴えるので、わたしはついおかしくなってあっは

っはあ、と笑ってしまった。そして

「あのね、荒川さん、介護保険は総合的に判定されるから簡単には言

えないけどね、認定には大きな二つのポイントがあるの、それはね、

歩けるかってことと、もう一つは認知症があるかないかですよ」

「わたしも『もの忘れ』が多くなりました」

「もの忘れくらい誰にもあるからねえ」

「ここには歩いて来れるからいいですけどね、センセ、眼科に行こう

と思ったらタクシーに乗らないといけないんです。『要支援2』では介

護タクシーは利用できないんです。お金があまりないんです」

「あっはっはあ、ごめんごめん、つい笑って・・・、だっておかしい

んですものねえ。介護保険の矛盾がそこまで分かっている人は認知と

認定されないんよ、ついでがあったら車に乗せてあげるから・・・」

「はい」

 彼女が再び脳血管障害をおこさないよう切に願っている。('09.12.17.)

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