どろえびすの診療話「診断が間違っていてよかった」

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先週のことです。

診療所の窓口に電話がかかってきた。中年の婦人の声で

「主人がここ何日も食事をしていないんです。いくらすすめても病院に行かないし、『ええ、ええ、ほっとけ』とばかり言って寝てるんです」

「はい」

「友達から聞いたんですが、そちらからは往診をしていただけるんですか」

「いいですよ、行きますよ」

「ちょっと主人と相談してもう一度お電話させていただきます」

 翌日また電話がかかってきた。

「すみません、主人は『医者嫌い』でしてねえ、どうしても『うん』と言

わないんです。わがままでホントに申しわけありません。でも、もういい

です往診をお願いします」

「はい、じゃあ午後2時からうかがいます」

 看護師から報告を受けたわたしは、いろいろな病気とともに寝ている人

の人物像に思いをめぐらした。患者さんはいままで何人もいたなあ。大抵

はワンマン亭主や、大酒飲みか、認知症がすすんでいる場合もある。ま、

若い医者たちにいつもも言ってるように「病気が分からんときには患家に

出かける」に限る。ただ、うまく患者さんがこちらのペースにのってくれ

て話し込めれば何とかなる、とそう思って出かけた。

 患家は近かった。

 家に入ると60がらみの夫人とおぼしき人が出てきて

「まあまあ、先生、お忙しいのにすみません」

 と、これは誰もが言うセリフ。

 案内された患者の寝室はあまり大きくない家の北の部屋。ご当人の患者はいわゆる「煎餅布団」にくるまって寝ていた。「先生にきていただきましたよ」と言ったが本人は何の反応もなく、冷たい布団からわずかに頭を出した。その顔は蒼白、いや単に蒼白というより土色。強い貧血と「るいそう」、何日も剃っていなのであろう、ヒゲは生やし放題。何を聞いても返事がない。夫人が側で「この人は耳も遠いんです」と言う。わたしは彼の耳元に口をあてて

「あんた、えらいんかなあ、何も食べとらんのかなあ」

 当人のかわりに夫人が「何も食べてないんです・・・、このままだと・・・」

あまり反応がないのでわたしは話題を転換した。

「あんた、どこの出身?」

 すると、いままで黙りこくっていた男が

「天草」

 と言った。

「ああ、そう、天草かな・・・、天草のどこ?」

「牛深」

「ああ、そうかな、牛深かな・・・」

 ここまできたらもうこちらのペースだ。だんだん話が核心に近づく。(続く)'09.12.1.

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