どろえびすの診療日記「わしもぼつぼつ終わりかなあ、センさん」

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 Kさんは今年九十三歳

 倉敷市浦田に娘さんと住んでいる

わずか三十軒ばかりのこの集落は、かって百歳以上も生きる方が次

々にでるくらい当市でも高齢者の多いところで知られていた。Kさん

は大工の棟梁で「このあたりの家は全部わしが建てた」というほどで

あった。

 わたしがこの方を診だしたのは1969年であった。

 最初はあまりたびたび 診るってほどでもなかったが彼の飾り気のな

い木訥(ぼくとつ)とした語り口が好きで診療の合間にはよく無駄話

をした。

"白菜の苗ができてるけど要る?"

 とわたしが言うと、彼は

「苗は要らん、できたやつのほうがええはなあ、あっはっはあ」

"つまり、作ってもって来い、ってことかな"

「そうじゃ、あっはっはあ」

 "うーん、わかった、ええのができたら持って来らあ"

  というような無駄話をしていた。

   Kさんを最初に診だしてからもう41年、彼も93歳になった

  彼もさすがにパワーが落ちて寝ていることが多くなり今では毎週往

診している、寝ているのは農家の奥のほうの納戸

部屋は暗いが本人はいつも明るい

「わしもぼつぼつおしまいかなあ、センさん」

「センさん」はこの人流の「先生さん」の略

"いやいや、まだまだ・・・"

「そうかあ?もうええ加減でええでえ、センさん」

 彼の腹部大動脈瘤はもう直径8センチを越している

 5センチくらいのときにはまだ外で仕事していたのに・・・・

 先日、介護保険制度に基づく「調整会議」で週に一度デイケアに

行くようすすめられたが、本人が行きたがらないという。わたしは

娘さんに「行かなくてもいい」と言った。そしてもう一言「もうい

つ破れるかわからないから、あんたも覚悟しなさい」と付け加えた。

彼女は少し緊張した面持ちで「はい」と言った。('10.2.22.)

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