2011年2月アーカイブ

87歳のAさんの家に往診に行った。

Aじいさんは独居。部屋は散らかりっぱなし。炬燵が一つあって布

団が敷いてある。布団は湿っているが、排泄物によるものか、水など

の食べものの一部がこぼれたのか判然としない。炬燵の外に足を投げ

出して座っている。足に触ると氷のように冷たい。冷たいだけではな

く、凍瘡によるものか閉塞性動脈硬化症によるものか足は赤紫色。「炬

燵に足を入れなさい」と炬燵に手を入れても少しも温かくない。でも素

足の足には炬燵の中のほうがまだましだろうと、足を炬燵の中に押し込

んで建て付けの悪い戸を開けて辞去した。

 このところの寒さは病める独居老人には耐えられないだろう。

 案の条、翌朝、Aじいさんが部屋で転んでいるところを発見。亡く

なってはいないという連絡でケアマネージャーと看護師が飛ぶ。これ

はもう入院以外にはない。病院に連絡しても、「お部屋は満員でござい

ます」というばかり。そんなときには担当医のわたしが出ていって「な

んとかしてくれ」と少し強引に言う。病院の入院係は「あの先生はいつ

もこうなんだから・・・」と言っている声が電話の向こうから聞こえて

くるようだ。強く、押しつけがましく言うわたしなんかは嫌われる決ま

っている。いいよ、好かれなくってもいい、わたしの判断基準は今目の

前に横たわっている患者をどうしたらいいかだけだから・・・・。

わたしたちのような第一線の診療所医療は医者も看護婦も「力」を

もっていなかったらできない。「力」というのは病院の入院担当の医師

や看護婦、医事の入院係に圧力をかける力ではない。またよく言われ

る狭い意味の「スキル」でもない。

 患者を前にして、患者の状態を診て、家族の顔を思い浮かべ、ケア

マネージャーの息遣いを想像し、総合的にどうするか判断する力が今

の高齢社会の中で診療所医療が存在する所以であろう。

大病院にだけしか勤めていない人にはわかりにくい話だろうなあ。

 「こんな例もありました」、これは次回

(2011.2.14.)